「お待たせっ、なのは!」
「…うん………」
…自転車。
【そんな初夏の日の。】
…昨日、急に「何処かに行こう!」なんて言われたからびっくりして、取り敢えず待ち合わせ場所と時間を決め…っていうか、普段なら有り得ないぐらいの強引さで半ば強制的に決められたんだけど、まぁ…相手がフェイトちゃんだから悪い気も全然してなかったし…
…多分、デート、だし。
待ち合わせ場所は近いところだったから移動も徒歩で、服装もワンピース。…正直、
「自転車でなんて聞いてないよ?」
「言ってなかったからね♪」
…言おうよ。少しは悪びれるとかしようよ。
なんでそんな楽しげなのかなぁ…
語尾の音符は気のせいじゃない…よね。
「言ってくれてたら服装とかもうちょっと考えたのに…」
ほんっと、言ってくれてたら動きやすいようにズボンとか履いてきたのに。…暑いから七分丈ぐらいだと思うけど。
…ってか、そもそも言ってくれたら私だって自転車で来るとかしたのに。
色々考えてるうちに恨みがましくなってきてそうやって呟いたら、フェイトちゃんは何故かきょとんとして、
「似合ってるじゃない、可愛いよ?」
……もぅ。ばか。
…臆面もなくそういうことをさらっと言っちゃうんだから…ほんと、ばかばか。
「?顔紅いよなのは?」
「なっ…んでもないっ!///」
変なとこだけ敏感なんだからっ…ばか。
「そっか…。あ、それよりほら、なのは」
「ぇ?」
フェイトちゃんは自分の後ろをちょいちょいと指差しながら私のことを呼ぶ。意味を理解しかねて首を傾げると、サドルに跨ったまま両脚で器用に地面を蹴って、私の真ん前にまで進み出てきた。
「乗って?なのは」
「ふぇっ?」
自転車は荷台付き。
…そこに乗るの?
「い、いや待ってよフェイトちゃん!」
「へ?」
「私…ほらっ、ワンピースだし…っ」
色々乗りにくいよって言ってみたら、フェイトちゃんはふむ…っと何かを考える素振りを見せた。
「跨ぐとかじゃなくて、横座りなら大丈夫じゃない?立って漕いだりとかもするかもしれないしっ」
「…」
…なんっていうか、すっごい正統派な意見…だよね。
フェイトちゃんらしいと言えば、らしいけど。
…そんな弾んだ声で“良い考えでしょっ?♪”とでも言い出しそうな笑顔で私を見ないでよ…
…実際、気にしてるのは別のことなのに……
「…失礼しまぁす…」
言いながら、しぶしぶ指示通りに荷台に横座りの状態で乗って、裾を整えたりしながらも荷台の両サイドをしっかり掴んだ。
…そうしたらフェイトちゃんは、訝しむように眉を寄せて私の方を振り向いてくる。
え…………重いのかな……;
「―――…ほんとに乗ったの?なのはは軽いね」
「ふぇっ?///」
ちょっ…ちょっと待ってフェイトちゃんっ!
「あ…嫌だった?ごめん。いや、だってほんとに軽―――」
「もっ、もういこっ!?///今すぐ発進しよっ!!」
…気にしてることってそれだったのに、そんななんでもないように言われるのってそれはそれで複雑な心境…
…まぁ…重いって言われるよりぜんっぜん良いんだけど…
…というより、フェイトちゃん…
…あったかい、なぁ……///
肩だけしか触れないけど、袖無しのパーカー越しの体温とか、すっごい落ち着く。
あーぁ…
…ズボンとかなら、跨げるから、…そうしたら背中に思いっきり引っ付けたんだろうなぁ…
って、今日の陽気で引っ付いたら暑苦しいか…
…なんか、別の意味で複雑な心境。
「そうだよね、じゃあっいくよっ!しっかり掴まっててねっ!」
私がもやもや考えてると、発進!!…っとかそんなことを言い出しかねないようなテンションのまま、フェイトちゃんは地面を蹴った。
二人乗りなんて滅多にやらないから、出だしはふらふらしてて危なっかしくて。
…だけど、フェイトちゃんが如何にもはしゃいでますオーラを全面に出してるから私までそのふらふらが楽しくなってきちゃって。
…体勢が安定してきてスピードが出始めた頃、掴んだ荷台から指を離してこっそりパーカーの裾を摘んでみた。
(…そういえばフェイトちゃん)
どこに連れて行ってくれるんだろう。
聞きそびれたけど、まぁ…乗ってればそのうち分かるよね。
ビュンビュン響く風の音に混じって、フェイトちゃんの調子外れ(って言ったら失礼だけど)の鼻歌が混じった。
*
坂道が多いなぁ…
もう長いことフェイトちゃんの後ろに乗りながら思ったのはそんなこと。
野を越え山を越え~
…ってことを現在進行形で体現している私たち。
普段なら絶対来ないような遠いところに既にやって来ていて、その間、休憩なんてものは一切取ってない。
…私はただ乗ってるだけだから別に大変じゃないけど、フェイトちゃん…大丈夫かな?
「…ふぅっ……ょいせっと」
そんな掛け声と同時に、フェイトちゃんは立ち上がって漕ぎ出した。
…緩やかな登り坂。
緩やかだけど、結構先の長い登り坂。
フェイトちゃん…普段そんなに汗かかないのに、今はパーカーの下に着た黒の半袖Tシャツが透けて見えるぐらいびっしょり汗かいてる。
珍しくポニーテールにしたうなじにも汗が滴って、後れ毛が…
って、それは、その光景は色々目に毒だから咄嗟に目線を逸らしちゃったけどっ
…とにかく、多分…っていうか絶対フェイトちゃん、くたくたなんだと思うのっ!
ここは!やっぱり!
「ねぇ、フェイトちゃんっ!」
休憩の提案をしようっ!!って決めて、思いっきり声を張り上げて呼び掛けた。
でも…ちょっと大きすぎたかも。下り坂じゃないから風の音もそんなしてないし…
「んぁっ、な、なにっ?」
案の定、フェイトちゃんはびっくりしたような声を上げる。…気を取り直して、私はフェイトちゃんに用件を話した。
「もう結構漕ぎ続けてるから疲れたんじゃない?そろそろ休憩しよっ?汗もかいてるし、拭かなきゃっ」
それらしい理由を付け加えたつもりだったけど、フェイトちゃんは屈託のない笑顔で一瞬私を振り返って答えた。
「いやっ、ぜんっぜん疲れてないよっ!それに拭いても直ぐにびっしょりになっちゃうと思うっ!」
「夏だからってそのままにしてたら風邪引くってば!」
「へーきだよー!」
…全く、このなのはさんが心配してるっていうのにっ。
「ふぇーっとちゃんっ!」
本人は気付いてないかもしれないけど…口調ほど声のトーンが明るくないんだよ?
間違いなく疲れてるときのトーンなんだよ?
…私を誰だと思ってるの。もぅっ!
「ほらっ、その先に休憩できるところがあるみたいだからそこに行って!」
「えーっ、大丈夫だよっ!」
「行かないなら降りちゃうよっ!」
「………………っ、分かった」
…なんなのこのお子様はっ。
私が言ったことにあっさり掌返しちゃって…
………かわいい……って、思った。不覚。
当のフェイトちゃんは拗ねたような表情でまた一瞬私の顔を見て、辺りを確認しながら休憩場所に指定したところに自転車を走らせた。
停止直後、荷台から飛び降りた私は鞄からハンドタオルと財布を取り出した。その時に背後で物音がした気がして振り返る。
…フェイトちゃんが、自転車ごと倒れてた。
「…へ?」
呆気に取られたのは一瞬。状況理解に要した時間、0.2秒。
「ふぇ、フェイトちゃんっ!?」
慌てて駆け寄り、フェイトちゃんの傍らに膝を付いて頬に触れた。
瞑った目がピクッとして、開く。直後気の抜けたような笑い声がしたと思ったら
「…思ったより、疲れてましたっ」
「…」
白のキャップを取って、顔を思いっきりはたいてあげた。
「あたっ!」
「ばかっ!だから言ったじゃない!」
ほんっと自分に対して鈍感なんだから!
…私は熱中症の心配だってしてたんだから。ケロッとしてても気を抜いたら駄目なんだからっ!
「…あの、なのはさん?」
「………そこの自販機で飲み物買ってくるから、フェイトちゃんはちゃんとしっかり汗を拭いててね」
「ぇ、だから…」
「拭・い・て・て・ね?」
「はいっ」
凡そ間に合いそうもないハンドタオルを渡して、小走りで自販機まで向かう。
(……はぁ……全く…………)
………そりゃ、確かにフェイトちゃんだからこんなに心配になるってこともあるんだけど。
…全く、人の気も知らないで…
―――なんて、思ったりも確かにするん、だけど。
(…お小言ばかりで可愛くないなぁ…私)
思わず重苦しい溜め息を吐く。…ほんと、心配になるたびにお小言言って、その度にきつく言い過ぎなぁって後悔する。
(…だって、フェイトちゃんが…)
自分を省みることを度外視するのが基本ステータスみたいな人なんだもん。
…なんて、そんなことを考える自分に対する自己嫌悪が半端じゃない。
…裏を返せば、それがフェイトちゃんの“美徳”でもあるっていうか。
他人を慮んばかれるっていう意味では…ね。
…そうやって認めてるからこそ、複雑。
もっと自分を大事にしてほしいっていうのが…私がフェイトちゃんに常日頃から願っている一番の願い。
―――ってさ、あーぁ…なんか…もう………
(今日みたいに楽しいはずの日にまで、何考えてるんだろ)
フェイトちゃんが自分を云々っていうのはいつだってあるけど、今日は…勝手が違うんだよね。
楽しいから。
今回のは…そんな全うかつ健全な理由が故の、それ。
本人からしてみたら、羽目外しみたいなそんな感じなんだと思う。
あのはしゃぎようからだって、そんなことは火を見るより明らかな感じ。
…だからって、心配じゃなくなるなんてことはないけど、まぁ…つまりと言ってしまうなら
「こんなときにまで色々考えてぶすくれるのはやめよっ!」
楽しい日なんだから。…デート、だから。
…あんまりぶすくれて、万が一にもフェイトちゃんに嫌われるのも嫌だし。
…え、嫌われるとか絶対嫌だ
「だーかーらっ!!!」
意味もなく大声を出して性懲りもなく回転しようとするネガティブ頭脳を強制停止させる。
…腑に落ちない思いは、“あれもこれも全部フェイトちゃんのせいだっ”ていう如何にも本末転倒な結論で纏めてしまう。
…その矢先、ルーレットの数字が並んだ表示を見て、スポーツ飲料を予期せず二本確保することに成功した。
その二本ともをフェイトちゃんにあげようって決めてしまうぐらいには、…私は彼女が大事なんだっていう付加事実も織り込んだ。
…自分の分の飲み物も入手した後、フェイトちゃんの元に戻ってみると…
…正座していた。
「…はい?」
「おかえりなさい」
今からお説教を受ける子ども宜しく縮こまって、上目気味に私を見ながら出迎える。
………あぁ…
「怒られてるって思ったんだ」
フェイトちゃんは無言で頷いた。
(………まいったなぁ…)
決まりが悪くて頬を掻く。…まぁ…確かにさっきは怒ってた(みたいになった)けど、…うーん………
「なのは」
「なぁに?」
犬耳だったら垂れてる。…そんな感じに見えてしまう目の前の人は私の名前を恐る恐る呼んで、
「…心配掛けてごめんなさい」
…そうやって素直に謝った。
「…」
…何も言わない私から視線を逸らして、俯いた先でさっき貸したハンドタオルをきゅっと握る。
あ…ちゃんと汗は拭いたみたい。
見た感じ熱中症の心配もなさそう。
…良かった。
無言で歩み寄って、俯きっぱなしのそのほっぺに、
冷えたペットボトルを押し当てた。
「ひゃっ!」
フェイトちゃんは、余程びっくりしたのか顔を上げて紅い瞳をまん丸と見開く。
ん、顔色も特に問題なし。
口をぱくぱくさせる様子に顔が綻ぶのもそのままに、私は飲み物を受け取らせて言ってあげた。
「気にしないで。大丈夫だよ」
きょとん顔から、眉を下げたしょんぼり顔への変化を遂げて、
「…ほんとうに?」
…なんて聞いてくるから
「………」
まだちょっと汗で湿ってる金の柔らかな髪を撫でてあげた。
「…なのは?」
「…心配だから、飲み物買ったり、休ませたり。…それは嫌なことだったりする?」
「そんなことないよっ!嬉しいよっ!」
「そっか♪」
「…迷惑かもだとは、思うけど」
「不要なことだよそんなの!」
「…そうなの?」
「うんっ!にゃははっ」
「…、そっか」
…まぁ…つまり、ね。
フェイトちゃんにとって嫌なことをしてるかもって考えてたのは“取り越し苦労だった”って言うのをフェイトちゃんが証明してくれて、
私は…フェイトちゃんが考えてる“迷惑”っていうものを真っ向から否定してあげた。
(だって、迷惑なんてことは有り得ないし)
…結局、私はフェイトちゃんが大事だから心配するんであって。…それが“嫌”だと思われてないんだったら…
「…じゃあ、大丈夫なのかな」
えへへって笑いながら、フェイトちゃんはペットボトルの口を開けてゴクゴクと喉を鳴らす。
「…もう一本あるけど、あんまり一気に飲むのも駄目だからね?」
「えっ、それはなのはの分じゃなくて?」
「私のは別にあるから。ルーレットで当たったんだぁ」
「そうなんだ、すごいね!」
「うん。…水分補給はこまめにね?」
またお小言みたいになったけど、…フェイトちゃんは素直に頷いて「分かった」って言ってくれる。
(…心配はもういらないかな?)
…言えば、聞いてくれる。
行動が伴わないこともない訳じゃないけど。
っていうか多すぎて頭をついつい抱えたくなるけど。
(多い少ないとかでも…聞く聞かないとかでもなくて…)
……私って、もしかしなくても
(…フェイトちゃんの直ぐ近くでフェイトちゃんを心配出来るってこと、…なんやかんやで幸せだっ!て…思ってるんだろうなぁ………)
なんて気苦労の堪えない幸せなんだろう。
…でも、悪くない、なんて。
(甘いなぁ…私)
色々おかしくて、堪えきれなくて吹き出した。フェイトちゃんが相も変わらずきょとん顔を見せてきたけど、何でもないよって言って転がったままのキャップを被せてあげた。
「…もう少し休んだら出発する?」
「あ、うん!」
…心配かけまくりで、まるでお子様みたいな彼女のことが、私はとっても大好きです。
そんな事実が真実。
…結局、そんな纏め方になるみたい。
さっきの纏め方は撤回の方向です。皆様方。
*
…休憩時間が長かったのか、すっかり日は傾き始めていて。
坂を登る自転車に乗りながら、私は流れ行く景色をぼんやりと眺めた。
出発してから、フェイトちゃんはこまめに水分補給と、要所要所でちゃんと休憩をとってくれるようになったから、例えばさっきみたいな酷いバテ方をすることはなくなった。
…でも、全体的にもう何時間も自転車を漕ぎ続けてることには変わりないから、流石に疲労の色が隠し切れていないようになっていた。
(風が涼しいのが救いかな…)
初夏の夕暮れ時。…風は、そんなに温くなってない。
フェイトちゃんの服。半分くらいまで上げていたパーカーのチャックは完全に外され、開いた裾がはためいている。
お互い、無言で。
…そういえば、私はまだフェイトちゃんから行き先を聞いていないことに今更ながらに気が付いた。
(別に、何処でもいいんだけど…ね)
そう思って、私はまた流れる景色に視線を投げる。
自転車って…不思議。
何処までだって行けちゃう気がする。
車と違って開放的だから、敏感に空気とか、景色とか感じられるし、
音も、色々聞ける。
…私たちって、空も飛べるけど。
地続きの場所を進んでいくのも、時にはきっと必要なことなんだと思う。
フェイトちゃんは…どうなんだろ
なんで自転車で来たのかな
どこに向かって進んでるのかな
…どこに連れてって、くれてるのかな
自転車のチェーンが巻かれる音が響く。
…いつの間にか、緩やかな下り坂になっていた。
「なのはっ」
…やや高いトーンで、名前を呼ばれ
私は、ゆっくりとフェイトちゃんの方へ顔を向けた。
「あっち、見て!」
喜色満面の声音に目を瞬かせ、片手を離したフェイトちゃんが指を指す方向にその視線を走らせる。
「――――…わぁ、ぁ……」
…真っ赤な、綺麗な夕陽。
「すごい…きれいっ……!!!」
見晴らしの良さとか、そんな細かいこととかは今は本当にどうでも良くて、
私はただただ、目の前に広がる真っ赤な景色にひたすら見入った。
「あそこに止めよっか!ゆっくり眺めよう!」
フェイトちゃんの声が高くて、その高さから如何に彼女が上機嫌なのかがよーく分かって、私も夢中で何回も頷き、停車した後、ついつい勢いよく飛び降りてしまった。
…私も、実は結構はしゃいでるみたい。
「良い眺めだねっ!」
「絶景かなぁ~!っていうのなのかな!」
古風な言い方を頑張ってしようとするぐらいにはフェイトちゃんもはしゃいでる。…あんまりうまくなくて、…吹き出した。
「な…っ!///笑わないでよっ!///」
「ごめっ…!ふふっ…!」
「…っ///」
………あーぁ…、そっぽ向いちゃった。
「ごめんね、フェイトちゃん」
「…」
「…フェイトちゃん?」
「……」
「ふぇーいーとーちゃーん?」
「………」
…すっかりご機嫌斜めなの。まいったなぁ…
なんちゃっ、て。
「ぇいっ」
「!?///」
…後ろに回って、抱き締める。
ご機嫌を直すにはこれが一番効果的なの。
「ごめんね?笑ったりして」
「…」
「かわいかったよ?」
「………、」
覗き込んだら、唇を尖らせた拗ね顔がそこにあって
…不覚にも、どきっとした。
「…っ、ほーらっ、もう機嫌直してっ!ねっ?」
「…ぅん」
多少のごまかしを含めつつもそうやってお願いしたら、小さく頷いてくれたからその頭を引き寄せてゆっくり撫でてあげた。
「…なのははさ」
「なぁに?」
「………子ども扱い、するよね」
「誰を?」
「私を」
…嫌がってる風には、見えないから
「駄目かな?」
「…駄目じゃないよ」
屈託のない笑顔。…やっぱり、不覚にもちょっとときめいた。
「…でもほんと、綺麗だよね」
すっかり機嫌が直ったらしいフェイトちゃんが、そう言いながら夕陽をまた見つめる。
…横顔、かっこよかったから別の意味でも…
お仕事させすぎてごめんね。心臓。
「…ぁ、フェイトちゃんっ!」
「ん?」
取り繕うように呼べば、夕陽よりも紅く澄み切った瞳に見つめられる。
…さっきまでの子どもっぽさはどこにいったの、なんて
どんなフェイトちゃんも好きだよとか絶対言ってなんかあげない。悔しいから。
「…今日は、これを見るために?」
私は…そう訊ねた。
…なんとなく分かってた。
場所なんて、実は決めてなんていなかったってことに。
だから聞くこともしなかったし、言っても来なかった。
…この景色を見たかった。
きっと、ただそれだけが目的だったんだ。
「…こういうところなら、綺麗に見えそうだなぁって思ったんだ」
フェイトちゃんが穏やかに言った。
「自転車でさ、何処まででも行けたら良いなって考えて、でも…宛もなく走り続けるのも良いけど、何か、なんでも良いから目的つくった方が楽しいかなって風に思って」
「…」
「夕陽だっ!…って思ったんだ。なのはと夕陽を見に行こうって。見に行きたいなって、なんだかそう思って」
「…」
「…場所は決めなかったけど、こんなような場所で見れたらいいなぁぐらいには考えてたかな。夕陽が出る頃にはそれなりに良い場所にたどり着けてたらいいやっ!みたいな感じで」
「…」
「…良い場所に着けて、ほんと良かったよ」
彼女は、ずるい。
…こんなにも素敵なこと、計算とかまるでなしにやってのけてしまうのだから。
向こう見ずでへとへとにへばってたのは誰だったかな?
…あまりのずるさにからかってあげようかと思ったけど
―――野暮すぎるから、やめた。
「…フェイトちゃん」
「なに?」
きょとん顔で首を傾げるフェイトちゃんから離れて、隣に立つ。
そして…
「―――あーりーがーとー!!!!」
「!?」
…夕陽に向かって、思いっきり
叫んだ。
「ふぇーいーとちゃぁーーん!!!あーりーがーとー!!!」
「ぁ…わわっ///」
「ふぇーいとちゃぁーん!!!」
「だーいすきだよー!!!!!」
…四言目だけ、喉が裂けそうなぐらいの大音量で思いっきり叫んであげた。
ずるい人への腹いせもなくはないけど…
なんかこう………愛おしさの大爆発!!…みたい…な?///
…落ち着くにしたがって身体中の体温が上がる気がして、顔も多分…紅くなってる。
…ふと、何も言わなくなったフェイトちゃんが気になって顔を向けてみたら…
夕陽が…もう一つ。
「…ぁ、っあ……////」
真っ赤。
真っ赤っか。
…夕陽よりも紅いよ
照り返しじゃ…絶対ないよね。
「…にゃ、にゃははっ………」
やりすぎちゃった…かも。
卒倒しそうなぐらい真っ赤な顔で、口をぱくぱくさせて二の句も継げないような感じ。
…だ、大丈夫…かなっ?
「ぇっと…」
なんて声を掛けたらいいか分からなくて困った私のその目の前
…フェイトちゃんが、口許をきゅっと引き結んで
「―――わっ、たしだって……っ!」
「なのはのことがっ…だーい好きだー!!!!!!!!」
………っ
ぼんっ!!
…自分の顔から、絶対的にそんな音がした。
「…ゎっ、わっ…///」
…これっ、すっごい恥ずかしいっ………!!!///
「はぁっ…はぁっ…」
…滅多に大声を出したりしないから、フェイトちゃんは思いっきり肩で息をしてる。
私は…なんて声を掛けたらいいかなんて考えられなくて、
金魚みたいに、口をぱくぱくさせるだけ。
「…これで、」
息の整ったフェイトちゃんは、私の顔を見ながら小さく呟き
「―――おあいこだねっ」
…それはそれは…とてもとても無邪気に微笑んでそう言った。
…帰り道。もうすっかり暗くなった道を走る自転車。
「フェイトちゃん」
「ん?」
「…今日は、ありがと!」
色々なことが、たくさんあった今日もあと少し。
…フェイトちゃんには、本当に感謝してもし足りない。
「今度は二人とも自転車でどっかいこっか!」
一列で並んだりして同じ場所に行くのも楽しいかも。
…そう思って提案した。
…けれど
「…次も、なのはは乗ってこないで良いよ?」
「ふぇ?」
予期せぬ言葉に面食らってしまう。
そんな私を知ってか知らずか
フェイトちゃんは一瞬だけ私を振り向いて
「なのはは後ろに乗っててよ!
どこへだって連れて行きたいんだっ!」
「………ばか///」
…ずるい。
ずるいずるいずるい。
…大好き。
…やっぱりずるい。
「ん?」
「知らないっ///」
…後ろで良かった。
暗くて良かった。
照り返しとかあり得ないもん、今の顔は。
「…仕方ないから、」
そっぽを向くなんて、さっきのフェイトちゃんみたいにお子様な態度を取って
「…どこへだって、連れて行かれてあげる…///」
「ありがと!なのはっ!」
…今、間違いなく私
この荷台の上で、なんかもうほんっとに恥ずかしすぎて色々堪えきれなくなって暴れられる自信があるけど
…折角の1日を、そんな形で終わらせるのも嫌だから。
…ちょっとだけ体を倒して、フェイトちゃんの背中に頭を預けて呟いた。
「…どこへだって、一緒に行こうね?」
フェイトちゃんとなら、何処でだって絶景だし、素敵な場所になるに決まってるから。
…そんな初夏の日。
サイクリングは…もう直き終わる。
□■□■□■□■□■□■□■□■□■□
夕陽に叫ぶとかっ…なにやってんだっ!///(なにやらせてんだwww
…思いがけないことが起こりすぎて私も何がなにやらさっぱり分かりませんw
ただ一つ言えることは
全部がちで萌えた!(ぉい作者wwwww
みんなサイクリングすればいい!
その前に私はパンク直さなきゃ…(笑)
…お読みいただき、有難う御座いました!><
PR